エリザベス女王在位70年 本当に「君臨すれども、統治せず」か? 史上最強の君主として

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 イギリスのエリザベス女王が即位70周年を迎え、6月2日から5日までの4日間、イギリスでは「プラチナ・ジュビリー」が開催された。この間、イギリスでは祝日なり、連日、さまざまイベントが開催される。

 「ジュビリー」とは在位期間の節目を、それぞれ祝うもの1

 女王は、即位25周年目の1977年にシルバー・ジュビリー、2002年に50周年目のゴールデン・ジュビリー、2012年に60周年目のダイヤモンド・ジュビリー祝っており、今回が4回目のジュビリーとなった。

 エリザベス女王は正式には、1926年4月21日に生まれ。ただ、公式の誕生日は6月の第2土曜日が制定されている。

 これは女王の曽祖父に当たるエドワード7世からの伝統であり、11月生まれのエドワード7世が、公の祝典を気候の良い時期に行いたいとして始めたもの。

 よく、「君臨すれども、統治せず」といわれるが、その言葉をそのまま受け取ってはならない。 女王は、イギリス議会会期中には毎週1回は首相と会見し、その時々の政治課題について話し合う。

 その内容については完全に極秘であるが、たとえば、サッチャー元首相は、

 「この拝謁が単なる形式的なものだとか、社交上の儀礼に限られていると想像する者がいたら、それは完全に間違い」

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との言葉を残した。

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女王の権力

 
 女王は、たとえば「日本国の象徴」である天皇と比較しても、信じられないほどの強大な権力を手にしている。
 
 女王は、イギリスの君主であるとともに、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ジャマイカ、バハマ、グレナダ、パプアニューギニア、ソロモン諸島、ツバル、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、ベリーズ、アンティグア・バーブーダ、セントクリストファー・ネイビスの16カ国の君主でもある。
 
 もちろん、16カ国の国々の統治は、それぞれの政府や議会などに託されてはいるものの、しかし各国の国家元首として女王は、「国の顔」である。実際、それらの国の紙幣にも女王の顔が描かれている。
 
 女王は、議会の開会式を行い、首相を任命し、女王の署名なくしては議会制定法も成立しない。外国からの賓客をもてなし、自らも国賓として世界中を飛び回ってきた。
 
 女王は、ウィンストン・チャーチルからポリス・ジョンソンまで、14人もの首相に仕えてきた。しかし、単なる国家元首としての地位のみならず、
 

「この国で政治的な経験を長く保てる唯一の政治家」

といわれるように、イギリスのみならず、16カ国すべての首相たちに助言を与えることのできる存在となっている。

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女王としての役割


 女王の「国王大権」は、19世紀以前に比べると制限を受けてきたとはいえ、しかし君主として「国家元首」としての大きな役割がある。

 女王の役割としては、

1.議会の開会・解散(ただし解散については2011年の議会法で除外された)
2.首相の任命
3.議会制定法の裁可
4.官職者の任命の裁可
5.枢密院令の裁可
6.国家元首としての代表的な役割(国賓の接遇、外国への国賓としての公式訪問)
7.各国外交官の接受、
8.首相との定期的な会見

などが挙げられる。

 さらに女王は、

9.栄典の授与
10.国軍の最高司令官
11.司法権の首長(イギリスでは女王の名において裁判が行われる)
12.すべての文官(官僚)の首長
13.イングランド国教会の最高首長

というような国制には明記されてはいないものの、しかし立派な役割がある。一方、「国家元首」としての役割と並び、イギリスの国王が果たしてきた重要な役割が、「国民の首長」としてのもの。

 それが、

1.国民統合の象徴(国民的な偉業や自然災害・テロなど、国民全体に関わる問題についてメッセージを発する)
2.連続性と安定性の象徴(議会の開会式や女王誕生日など、各種の伝統行事などを通じて)
3.国民の功績の顕彰
4.社会奉仕への援助(各種慈善団体のパトロンなど)

の4つがあるという3

岐路に立たされる、女王の権力


 2019年、イギリスで、このような女王の権限について、疑義を呈するような最高裁判決が下された。9月24日、ジョンソン首相が5週間にわたり議会を閉会していたのは違法との判断を下す。

 「女王は議会閉会について、たとえあったとしてもほんのわずかしか選択の自由はないのだ。一方で、総選挙を経ずに少数与党を率いるジョンソン首相は歴代首相に比べて国民の信任を得ていない、つまり首相としての権威が乏しいとも言える」

「それだけに、女王はジョンソン首相の助言を退けられたのではないかという意見もある。そのような真似は、憲政上の地雷原をジグザグに走るようなものだ」

「最高裁は、首相の議会閉会を違法かつ無効と判断しただけではなかった。政府の決定を女王が個人的に承認する「国王による裁可」が、違法かつ無効であると判断」
 
「現代における君主の役割は、常に影の中、憲法のグレーゾーンの中にある。成文化されていない規則や慣習は尊重されるものだという、長年の合意を前提に」 

「そして、女王に恥をかかせてはならない、女王が政治的役割を演じているなどと批判されてはならないという、長年の合意のもとに」

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 問題の根底にあるものが、イギリスの憲法が成文化されていない、不文憲法であること。そのため、イギリスにおいても、成分憲法を求める声が上がっている。

  1. BBC NEWS JAPAN『【解説】 エリザベス英女王、即位70周年の「プラチナ・ジュビリー」始まる 王室の現在は?』2022年6月2日、https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61657892
  2. 君塚直隆『エリザベス女王 史上最長・最強のイギリス君主』中公新書、2020年
  3. 君塚直隆、2020年
  4. ジョニー・ダイモンド『【解説】 女王の立場はどうなる?……政府の影にいたはずが 英最高裁の議会閉会違法判決』BBC NEWS JAPAN、2019年9月25日、https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-49821233