FBIがトランプ前大統領の邸宅を捜索 機密文書15箱を持ち出し? 「記録大国」アメリカの正義と杜撰な日本の公文書の取り扱い

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Gerd AltmannによるPixabayからの画像

 FBI(アメリカ連邦捜査局)は8日、捜査令状に基づき、南部フロリダ州にあるトランプ前米大統領の邸宅である「マールアラーゴ」を家宅捜索。この事実は、トランプ氏が声明で明らかにした。

 前の大統領が強制捜査の対象となるのは極めて異例。捜索の容疑が明らかにされていないが、複数のアメリカメディアは、機密文書の取り扱いに関する容疑であると報道。

 大統領に公務に関してのすべての記録は、退任後に国立公文書館に引き渡して保管することが義務付けられている。しかしトランプ氏は、退任のときに合計15箱の資料を持ち出したことすでに明らかに。

 国立公文書館は1月、邸宅「マールアラーゴ」から15箱の資料を回収し、そのなかに引き渡しが義務付けられた機密文書が含まれていたと議会側と司法省にも連絡。

 ホワイトハウスのジャンピエール報道官は9日、

 バイデン大統領は捜索について事前に何も知らされていなかった。

高野遼1、2022年8月10日

として大統領側の関与を否定。

 司法省は独立して捜査を行っており、あらゆる法執行を一任されている。進行中の捜査について我々がコメントすることは適切ではない。

高野遼、2022年8月10日

とし、詳細についての回答は控えた。

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トランプ氏 在任中は「文書破り捨て」の常習者 トイレに書類を流す?


 そもそも、昨年1月6日の連邦議事堂襲撃事件を調査する委員会が調査をする過程で、襲撃事件の当日や、その前後のトランプ氏の言動、ホワイトハウスの記録などを、国立公文書管理局から渡された文書の中に、「破られ」、「テープでつなぎ合わされた」文書が出てきた。

 そして委員会によるトランプ氏の側近のインタビューから、トランプ氏が、在任中に大統領の記録の保存を定めた「大統領記録法」に違反し、あらゆる文書を破り捨てていたことが明らかになっていた2

 ワシントンポストによると、トランプ氏は在任中、ブリーフィングやスケジュール、新聞記事、手紙、メモなど、重要なものからそうでないものまで、ありとあらゆる書類を破り捨てていた3

 また記事によると、トランプ氏とその側近は、頻繁に「書類を破壊するための」バーンバックと呼ばれる機密書類廃棄袋を用意し、それで書類を破壊していたという。

 一方、ニューヨーク・タイムズの記者でCNNにも寄稿するマギー・ヘイバーマン氏は新著で、トランプ氏が手書きのメモを破り、ホワイトハウスなどのトイレに流す写真を公開する4

公文書とは その重要性 「絶え間ない監視は自由の代償」


 公文書とは、おもに役所が意思決定をするときの過程や結果を記録したもの5。 その作成と保存は、のちの検証を可能とすることで、行政が適正に運営されているのか、常に監視することが狙いだ。

 もし公文書が役所の都合により書き換えられていたりすることがあれば、その文書がもとより、行政自体への信頼が失われかねない。

 海外では、アメリカのように国立の公文書館に文書を管理する人間を多く配置し、重要な文書については永久的に保存したり、あるいは機密文書などすぐに開示できない文書についても、数十年のときを経て、公開することを原則としている。

 つまり、公的な記録については、「民主主義を支える国民の財産」という考え方が根付いている。

 過去は物語の始まりである

 過去に学べ

 過去の遺産は未来の実りを生む種である

 絶え間ない監視は自由の代償である

高橋友佳理6、2017年9月3日

 これは、「記録大国」ともいえるアメリカの国立公文書館の本館前に並ぶ4体の大きな彫像の台座に刻まれた言葉だ。公文書館は、ワシントンDC周辺の3施設だけで、100億枚に文書を保存する。

Andreas H.によるPixabayからの画像

杜撰極まりない、日本の公文書をめぐる状況


 他方、日本の公文書をめぐる状況は極めて杜撰。長年、日本の公文書の問題に取り組んできたNPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は、そもそも日本では政権の意思決定過程を公文書として記録に残さなければならないという概念自体が希薄であるとする7

 とくに安倍政権以降の官邸一橋体制の下で、内閣人事局などにより一元管理されるようになった幹部官僚たちが、政権に”忖度”するようになった。

 そのため、のちのち政治家、とりわけ官邸にとって不都合になってしまいそうな公文書は、なるべく残さないようになってきたという風潮があるようだ。

 ただ、森友事件については、交渉記録や決裁記録を詳細に残したことがかえってマイナスとなり、実際に公文書改ざん問題にまで発展した。そのことも官僚たちの間で、「公文書をなるべく残さない」という雰囲気を強めたという。

 実際、加計学園問題については、総理をはじめとする政府高官が、「いつ誰と会ったか」を記録した面会記録がわずか1日で廃棄された。

 一方、アメリカではホワイトハウスの入退出記録が詳細に記録されていたり、大統領や政府高官の日程がニクソン大統領の時代から詳細に公文書として残されている。

  1. 高野遼「トランプ氏宅捜索「バイデン氏は知らなかった」 政権が関与否定」2022年8月10日、https://digital.asahi.com/articles/ASQ8B2C5YQ8BUHBI003.html
  2. NewSphere「トイレに文書を流す? トランプ氏の大統領記録法違反、捜査で露呈」2022年2月18日、https://newsphere.jp/politics/20220218-1/
  3. https://www.washingtonpost.com/politics/2022/02/05/trump-ripping-documents/
  4. CNN.co.jp「トランプ前大統領、手書きのメモを破りトイレに流そうとしたか 写真が浮上」2022年8月9日、https://www.cnn.co.jp/usa/35191648.html/
  5. 木村和規「公文書って何? なぜ不祥事がなくならないの? 超解説」朝日新聞、2018年6月3日、https://www.asahi.com/articles/ASL616KGML61UTFK01Y.html
  6. 高橋友佳理 「世界の「記録の番人」を訪ね、公文書の重みを改めて考えた」朝日新聞グローブ+、2017年9月3日、https://globe.asahi.com/article/11574365
  7. ビデオニュース・ドットコム「公文書管理と情報公開のできない政権は歴史の審判に値しない」2020年10月3日、https://www.videonews.com/marugeki-talk/1017
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