イランとサウジアラビア 中国の仲介により関係正常化 因縁のライバル 雪解け アメリカと日本、蚊帳の外

アジア
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Engin AkyurtによるPixabayからの画像

 中東で覇権を争ってきたサウジアラビアとイランが10日、外交関係の正常化で合意した。主導したのは、中国。

  もともと、欧米諸国と対立するイランと親米のサウジアラビアは、2016年に断交。2019年にはサウジアラビアの石油施設が攻撃された事件で、これをアメリカはイランの仕業と断定、対立が深まる。

  一方、中東に長年に渡り関与してきたアメリカは、水面下の交渉の枠外に置かれ、あるいはウクライナ戦争の最中のロシアも余力はない。

「対話と平和の勝利」
「世界にはウクライナ問題だけでなく平和に関する問題が多くある」

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  中国の外交担当トップである王毅共産党政治局員は、今回の合意について、中国が、

 「善意の信頼できる仲介者」

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 の役割を果たしたと誇る。

  習近平国家主席は、昨年の春に中国主導の

 「グローバル安全保障イニシアチブ」構想

 を提唱。紛争解決の協議や、中国との安保協力を世界各国に呼びかける。そして今回の合意を

 「成功例」

 と位置付ける。

  一方、サウジアビアがイランに接近した背景には、アメリカが中東への関与を薄めたことが関係か3

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因縁のライバル 雪解け 中東情勢安定なるか

 

「主権の尊重と互いの内政への不干渉を強調する」

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  イランとサウジアラビアは10日に発表した共同宣言において、こうアピールする。協議に参加したサウジアラビアのアイバン国家安全保障顧問も

 「今後も建設的な対話を続けていく」

 とする。

  イスラム教スンニ派の盟主であるサウジアラビアとシーア派の大国イランは、ともに中東で覇権を争う”因縁のライバル”だ。

  1979年のイラン・イスラム革命により、シーア派法学者の統治がイランで始まると、サウジアラビアは革命の波及を警戒し、対立する。

  両国は2016年1月に断交。さらにサウジアラビアが王室に批判的だったシーア派の指導者を処刑したことで、イランでの反発が高まり、暴徒がテヘランのサウジアラビア大使館を襲撃する。

  あるいは、両国はシリアやイエメンにおける内戦で敵対する陣営を支え、中東での緊張を高めてきた。サウジアラビアとイランとの関係改善により、今後、中東情勢の改善がなるかが注目される。

  サウジアラビアは中東への関与を低下させるアメリカへの不信感から、対米追従外交の見直しを進めた。

 経済苦境のイランの背景も

 イランとサウジアラビアとの関係改善に向けた交渉は、もとは2年前にイラクによる仲介で始まったという5

  サウジアラビアは、イエメンとシリアの内戦や、レバノン情勢をめぐりイランとの影響力を競っていたものの、しかし、望ましい結果は得られず。

  対するイランもアメリカなどによる経済制裁下で悲惨な状況にあり、自国の核開発を制限する代わりに経済制裁を解除させる核合意の復活を目指す6

  ただ、サウジアラビアはもともと、核合意に反対の立場で、2018年の米トランプ政権による核合意には離脱していた。そのため、イランが核合意を復活させるためには、サウジアラビアを味方につけなければならない。

  イランと対立するイスラエルが最近、アラブ諸国やサウジアラビアとの関係を正常化しようとしている点も、イランにとっては懸念点だったという7。そのため、イランがさらに孤立することは避けたかった。

  イランはサウジアラビアとの関係を正常化することで、経済を改善したいと考えている。実際、正常化されることが発表されたあと、イランの自国通貨であるリアルの対ドル相場は上昇。

サウジアラビア 積極外交 日本、蚊帳の外

 対するサウジアラビアは、ここ最近、積極的な外交をしかけてきた。2022年7月のバイデン米大統領によるサウジアラビア訪問を皮切りに、サウジの実力者であるムハンマド皇太子は同じ月、ギリシャとフランスを歴訪。

  11月には、インドネシアで開かれたG20サミット(主要20ヵ国首脳会議)に出席。つづいて、韓国を訪れ、尹錫悦大統領と会談した。

 12月には、中国の習近平国家主席がリヤド(サウジアラビア)を訪れ、ルマン国王やムハンマド皇太子らと会談している。

  一方で、ちょっとした”事件”が話題になった。ムハンマド皇太子の「訪日キャンセル」である。皇太子は、韓国とタイを訪れたのち、訪日する方向で調整が進んでいた。

  日本側は岸田文雄首相との会談などが準備されていたという8

 韓国・聯合ニュースは、訪日のキャンセルについて、

 「一部ではムハンマド氏が今回の訪韓で、予想を上回る巨額のプロジェクトを推進したことが影響したとの指摘がある」

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 という。実際には、日程の調整が困難であったとされるが、韓国はサウジアラビア側と4兆円規模の経済合意を締結した。

  1. 丹村智子「中東の転換 中国主導」西日本新聞、2023年3月12日付朝刊、2項 
  2. 丹村智子、2023年3月12日 
  3. 丹村智子、2023年3月12日 
  4. 読売新聞オンライン「イランとサウジが関係正常化に合意、中国が仲介…2か月以内に大使館再開へ」2023年3月11日、https://www.yomiuri.co.jp/world/20230310-OYT1T50334/ 
  5. ジャバド・ヘイランニア「イランの経済苦境 背景」佐藤達弥、朝日新聞、2023年3月12日付朝刊 
  6. ジャバド・ヘイランニア、2023年3月12日 
  7. ジャバド・ヘイランニア、2023年3月12日 
  8. 牧野愛博「サウジアラビアが「日本はスルー」なのに「韓国とは4兆円経済合意」のなぜ…背景に30年万博招致競争も」現代ビジネス、2023年1月19日、https://gendai.media/articles/-/104920 
  9. 牧野愛博、2023年1月19日 
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