トランプ前米大統領、機密文書持ち出しで7つの罪 37の事案で起訴 起訴内容 杜撰な管理状態

北アメリカ
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Lisette BrodeyによるPixabayからの画像

 米フロリダ州の連邦地裁は9日、自身が住む私邸への機密文書持ち出し問題に関し、8日に起訴されたトランプ前大統領の起訴状を開示。

  それによると、トランプ氏は国防情報を不当に保持していたとし、スパイ防止法違反や司法妨害の共謀など7つの罪に問われ、37件の個別事案で起訴されていた。

  このうち、スパイ防止法違反に絡むのは、31件。そのなかでも、アメリカや外国の核兵器や軍事力に関わる機密情報を保持していた1

  起訴状によると、トランプ氏は2021年、2回にわたり、アメリカ軍の軍事作戦に関する文書や地図を機密であると知りながら、閲覧の権限のない外部の関係者に見せていた。

  保持していた機密文書の中には、アメリカや同盟国の軍事的な弱点を示したもの、外国による攻撃への報復計画も含まれていたという。

  持ち出された機密文書は、トランプ氏がフロリダ州にもつ私邸のマール・ア・ラーゴの事務所、宴会場やトイレ、シャワー室、寝室といったとように”無秩序”に保管。

  なお、トランプ氏が退任した後、身の回りの世話をしていた付き人の男も、司法妨害の共謀罪などで8日、起訴されている。

  今回の問題でより”悪質”なのは、「ファイブ・アイズ」というアメリカやイギリスなど5カ国でしか共有できない軍事機密が含まれていたことだ2

  ファイブ・アイズとは、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドのアングロサクソン系英語圏の5カ国による機密情報共有の枠組みの呼称。

  このような、高度な機密文書がトランプの私邸に放置されていたことになり、同盟国からの”対米不信感”が生まれかねない。

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トランプ前大統領の起訴内容

・スパイ防止法違反
国家防衛に関する文書を保持する権限がないのに私邸で保持した
 
・司法妨害の共謀
付き人ち共謀し、連邦大陪審が返還を命じた文書を保持していないと虚偽の説明をするよう弁護士に持ちかけた
 
・文書の不提出
文書の場所を移し、弁護士が発見できないようにして連邦大陪審に提出できなくした
 
・文書の不正隠蔽
文書を弁護士から隠した
 
・連邦捜査に対する文書の隠蔽
文書を連邦捜査局(FBI)から隠した
 
・隠蔽計画
FBIと連邦大陪審から文書を隠した
 
偽証
・捜索の前に文書を持ち去っていたのに虚偽の証言をした
 
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管理杜撰

 開示されたトランプ前大統領の起訴状からは、機密文書持ち出しについての事態の深刻さが、次々と明るみに。

  トランプ氏は、軍事機密を外部の人間に“平然と“さらし、私邸のトイレや宴会場には文書が入った箱が山積みの状態になっていた。

 さらに杜撰な管理に加え、引き渡しを求める当局からの隠避工作も図っていたことが判明する。

  検察は起訴状において、軍事情報を含む機密性の高い文書についての保管状態について、写真を添えて詳しく明らかにしている。

  それによると、トランプ氏は、大統領を退任した2021年1月20日、ホワイトハウスを退去する際、私邸マール・ア・ラーゴに機密書類箱入りの多数の段ボール箱を運び入れた。

  私邸は、大統領時代に別荘として使っていた場所だが、会員制の高級リゾートとして利用客も出入りする場所。機密書類は当初、イベントが開催されるボールルーム(大広間)のステージに積み上げられていた。

  その後、3月にビジネスセンターに移され、トイレや浴室にも保管されていた。同年5月には、トランプ氏は収納室を使うよう従業員に指示。収納室につながる廊下は利用客が使うプールに通じている。

  12月には、複数の箱が床に落ち、書類が散乱していた光景も目撃されていた4

  起訴状では、トランプ氏が2021年7月21日、ニュージャージー州で経営するゴルフ場で作家の取材を受けた際の発言も紹介されている。それによると、

 「私は大量の文書を持っている。(その中から)私が見つけたんだ。すごいだろ。これを見てくれ。攻撃をし、そしてー」

5

 と、このように、文書を部外者に示したことを窺わせる録音のやり取りも明記されていた。

  トランプ氏は、2020年11月、核開発阻止を目的にイランを攻撃する場合の選択肢を検討していたと報道されている。米メディアは、ゴルフ場で示された文書はイラン攻撃をめぐり米軍首脳が作成したものだと報じている。

 今後のゆくえ

 起訴状によると、トランプ氏がホワイトハウスから私邸へ機密文書を持ち出したことを最初に認識したのは国立文書記録管理局(NARA)で、NARAからの報告に基づき、2022年3月FBIが捜査を始める。

  同年5月、トランプ氏に対し、すべての機密文書を提出するよう、召喚状が送られた。

トランプ氏の弁護士はこれに従う必要があると説明するもトランプ氏は、

 「誰でも自分の(文書を保管している)箱の中を見てほしくない」
「(捜査当局に)ここには何もないと言った方がいいんじゃないか」

6

 と主張。ただ弁護士とは箱の中を確認することで合意した。しかしトランプ氏は、弁護士に知らせないまま、側近に箱の一部を自宅の「倉庫部屋」から運び出すよう指示。約64箱を別の場所に移動させる。  

  弁護士はそうとは知らずに、見つけた38点の機密文書について「全ての関連する文書」などとしてFBIに提出。結果的にこれらは虚偽の報告となってしまう。

  FBIはその後、防犯カメラ映像などから、トランプ氏の側近が箱を搬出した様子を把握して強制捜査に踏み切る7

  アメリカでは、起訴されたり有罪で服役したりしても、公職への立候補は妨げられない。ただ、唯一の例外として、公文書を故意かつ不法に隠したり、破損させたりした場合、公職資格を失う連邦法の規定が。

  しかし、この規定は大統領の出馬要件を定めて合衆国憲法との兼ね合いで議論の余地があり、適用すれば、今後、激しい法廷闘争に発展しかねない8

  ただ、トランプ氏の場合、訴因のほとんどがスパイ防止法についてのもので、一部の罪には最長で20年の禁錮刑という厳しい罰則も9

  トランプ氏の場合、自ら、違法行為を指示し、弁護士を誘導したり証拠隠滅を図ったり、捜査当局に嘘をつかせたりするなど、悪質性を際立たせている。

  1. ワシントン=共同「トランプ氏「機密」自覚」西日本新聞、2023年6月11日付朝刊、3項
  2. TBS NEWS DIG「核開発計画などの機密文書をシャワー室や倉庫に保管 トランプ前大統領起訴状で明らかに スパイ防止法違反など37の罪」Yahoo!ニュース、2023年6月10日、https://news.yahoo.co.jp/articles/4ba23fd263b8e6a2c7901db11853c7bfd10939ce 
  3. 田島大志・蒔田一彦「最高機密ずさん管理」読売新聞、2023年6月11日付朝刊、3項 
  4. 田島大志・蒔田一彦「最高機密ずさん管理」読売新聞、2023年6月11日付朝刊、3項
  5. 田島大志・蒔田一彦、2023年6月11日 
  6. 朝日新聞「トランプ氏、機密と認識か 罪状37件、生々しいやりとり」2023年6月11日付朝刊、7項
  7. 朝日新聞、2023年6月11日
  8. 朝日新聞、2023年6月11日
  9. 朝日新聞、2023年6月11日
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