「飲む中絶薬」 日本でも承認 使用法 海外の場合 遅れる性教育、背景に統一教会

ジェンダー
スポンサーリンク

jette55によるPixabayからの画像

 人工妊娠中絶のための飲み薬である経口中絶薬が、今年の4月28日、国内で初めて承認された。

 製品名は「メフィーゴパック」。2種類の飲み薬を組み合わせて使う。イギリスの製薬会社ラインファーマが2021年12月に厚生労働省に承認申請していた。

 使うことのできる対象は、妊娠9週0日までの妊婦。企業が臨床試験(治験)で有効性や安全性を確認したのもこの妊娠期間の人のみなので、それ以降は使うことはできない1

  使用方法は、まず妊娠を続けるために必要な黄体ホルモンのはたらきを抑える薬「ミフェプリストン」を1錠飲む。

  36~48時間後に、子宮を収縮させるはたらきがある薬「ミソプロストール」4錠を、左右の奥歯とほおの内側に2錠ずつ含み、30分かけて溶かして粘膜から吸収させる。30分後でも口の中に薬が残っていれば、飲みこむ。

 このような、飲む中絶薬は、1988年に世界で初めて承認され、現在は80以上の国・地域で使用されている。

 一方、日本では長らく承認されず、妊娠初期の中絶方法は手術に限られていた。

 その方法は、スプーン状の器具で胎囊(たいのう)などを出す「搔爬(そうは)法」や、ストロー状の管で胎囊などを吸い出す「吸引法」、この二つを併用する形で手術を行っていた。

 中絶そのものに否定的な意見を持つ人もいて、薬の導入議論はあまり進んでいなかった。しかし、個人輸入した中絶薬で健康被害が出るケースも目立つようになる。

 また、世界保健機関(WHO)が2012年に発表したガイドラインで、妊娠中絶の「安全で効果的」な方法として、吸引法か中絶薬を推奨。

 このようななか、日本でも薬の承認を求める声が高まっていた。他方、日本では旧統一教会(世界平和統一家庭連合)が、”純潔教育”の下、自民党右派とともに性教育をバッシングしてきた経緯がある。

関連記事→

スポンサーリンク

使用法

 経口中絶薬を処方するには2つの条件がある。ひとつは「母体保護法指定医」であること。そして、現時点では「入院可能な医療機関・診療所」であること2

 母体保護法とは、母性の生命と健康を保護することを目的として不妊の手術や人工妊娠中絶を認めた法律。

 この法律に基づき、都道府県医師会が設置した審査委員会によって指定されたのが、母体保護法指定医現在、全国に7500ほどいる。(厚生労働省調べ)

 また、出血などの症状に対応するため、中絶が確認されるまでは院内で待機することが必要とされている。そのため、入院が可能な医療機関・診療所だけで処方が可能となっている。

  2023年6月20日現在、経口中絶薬を処方しているのは全国で15施設。申請中の医療機関が約300施設で、今後、次第に増えていくと予想される。

  人工妊娠中絶は、原則として健康保険が適用されない自由診療のため、薬による中絶にかかる費用は各医療機関・地域によって異なる。薬の価格はおよそ5万円、それに加えて診察料と入院費などがかかる。

 一方、オランダやフランス、スウェーデンなどでは中絶が全額公費負担で行われている3。また、女性に対するカウンセリングが重視されている。

 そもそも日本においては、「飲む中絶薬」どころか、中絶そのものが長らくタブー視されてきた。

 日本においても、さまざまな事情で、やむをえず中絶を選択する場合も、その後の妊娠や出産についてよく考えてもらい、具体的な情報を提供するとともに、精神面を含めてサポートしていく体制づくりが必要だろう。

海外では?


 日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)によると、中絶薬の「ミフェプリストン」は、1988年にフランスで承認されて以降、現在では65以上の国と地域で承認されている。

 G7(先進7か国)でみると、承認されていないのは日本だけとなっていた。

 人工妊娠中絶で中絶薬を使う割合は、先進国を中心に増えている。とくに北欧のフィンランドやスウェーデンでは非常に高い割合となっている。

人工妊娠中絶における「中絶薬」の使用割合

フィンランド(98%)2021年
スウェーデン(96%)2021年
イギリス(87%)2021年
フランス(70%)2019年
アメリカ(51%)2020年
ドイツ(32%)2021年

4

 一方で注意すべき点もあるという5。イギリスの医療機関で中絶薬を処方する医師によると、まず一番気になるのが、出血や痛みがひどかった場合など不測の事態への対処方法だ。

 医師は、対処の仕方など丁寧な説明と、何かあった場合にいつでも連絡が取れる態勢の必要性を強調する。

 さらに、医師は、イギリスでは医療機関の外で中絶薬を飲んで中絶することが認められていることから、中絶が誰かから強要されていないか、または逆に、誰かに服用を止められたりしないか、確認に細心の注意を払っているという。

 最後に、医師が指摘したのは、人工妊娠中絶を選択した女性本人が選べる選択肢があることの大切さであった。

 「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」という概念がある。これは、性や身体のことを自分で決め、守ることができる権利のことだ。

 「リプロダクティブ・ヘルス」は、産む・産まない、いつ・何人子どもを持つかなど、生殖に関することを自分で決める権利で、そのために必要な情報やサービスを得られることも指す。

遅れる性教育 背景に統一教会

 一方、日本においては、性教育の遅れが指摘されている。そのために、10代からの「予期せぬ妊娠の相談」が増加傾向にある。

「日本で性教育という言葉が使われ、学校で性に関する具体的な指導が始まったのが1992年。ただ、その頃から教えていることはそれほど大きく変わっていないんです」

6

 30年もの間、日本の性教育が停滞したままの理由の一つとして、2003年に起きた七生養護学校事件が挙げられる。東京都日野市「七生養護学校」が行っていた性教育に対して、右派議員や新聞社などが介入。

 授業内容が不適切であると非難し、東京都教育委員会が当時の校長や教職員に厳重注意処分を行った事件だ。

 知的障害がある生徒を対象に独自の教材を用いて行っていた授業が、「行き過ぎた教育」として報道されたことで全国的に性教育バッシングが広がり、性教育そのものが停滞してしまった。

 しかし、その背景には旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の存在があったことが分かっている。

 1992年には、小・中学校の学習指導要領に性に関する指導内容が書かれたことで性教育元年と呼ばれた。しかし、右派はそのことに脅威を感じる。背景にはアメリカでの経験があった。

 アメリカでは1980年代ごろから右派が性教育を攻撃することで勢力を伸ばす。日本でも、政治が宗教右派と結びついた。とくに自民党の中では傍流だった安倍派(清和会)は教育問題を勢力拡大のテコにする。

 その最初の一つが性教育への攻撃だった。そのなかで自民党と統一教会はさらに関係を深める7

 他方、2023年7月に翻訳出版された『射精責任』は、妊娠中絶の99%が望まない妊娠が原因であり、その望まない妊娠のすべての原因が男性にあると指摘。そう、すべては男性の問題に起因するのだ。

  1. 市野塊「【そもそも解説】「飲む中絶薬」ってどんな薬? 効果と副作用は?」朝日新聞デジタル、2023年5月8日、https://digital.asahi.com/articles/ASR3R3VPYR3QUTFL012.html 
  2. 対馬ルリ子「経口妊娠中絶薬 どう使う?安全性は?費用は?」NHK健康、https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1556.html 
  3. 対馬ルリ子、2023年7月6日 
  4. 松田伸子「日本でも注目される「経口中絶薬」海外でどう使用? 注意点は?」NHK国際ニュースナビ、2023年4月11日、https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2023/04/11/30455.html 
  5. 松田伸子、2023年4月11日 
  6. 日本財団ジャーナル「【10代の性と妊娠】予期しない妊娠や性被害から守るために。家庭でできる性教育のすすめ」2021年12月9日、https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2021/65437 
  7. 浅井春夫「性を攻撃する宗教右派と自民党右派の結託 性教育バッシングの狙い」毎日新聞、2023年8月31日、https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20230830/pol/00m/010/006000c 
Translate »
PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました