政府は11月19日、新しい経済対策として、18歳以下の人を対象とした10万円の給付を決めた。このうち、5万円は児童手当の仕組みを利用して年内に現金での支給を始め、残りの5万円を来年の春に向けてクーポンを基本に給付するとしている。
現金給付の対象となるのは、0歳〜高校3年生までとし、高校に進学していない若者も対象となる。予算額が1兆9473億円を見込み、また非正規労働者や生活困窮者などへの現金給付については、別途行うという。
また12月7日、政府により、10万円を全額現金で給付することも可能であるという見解が出された。
給付額は、まず現金5万円を支給。さらに別途、来年の春までに使途を限定した5万円相当のクーポンを支給する。なお、各自治体の判断により全額を現金で支給することも可能ということになった。
手続きについては、中学生以下への5万円給付については児童手当に仕組みが使われるため、申請は不要。高校生世代は申請が必要となるため、中学生より給付の時期が遅れる。
中学生より以下の年齢の子ども、高校生世代ともに残りの5万円は、来年の春の新学期に向けてクーポンで給付する。ただ、年収が960万円を超える世帯は今回の給付金の対象から外れる。
またマイナンバーカードを所持している国民に対しても、最大2万円分のポイントを付与する。
具体的には、マイナンバーカード保有者への「マイナポイント」付与については、新たにカードを取得した人に対し5000円分、カードを健康保険証として使うための手続きを行った人に対し7500円分、預貯金口座との紐付けをした人には7500円分をそれぞれ支給する。
また自治体が独自にそれに対しポイントを上乗せする仕組みも導入する。
子ども向けの給付についてはもともと、公明党が10月の衆院選の公約で「未来応援給付」と名付けて訴えた。その中では、0歳から高校3年生までを対象に一律1人10万人相当の給付を掲げていた。
公明党の山口那津男代表は当初、親の所得によって子どもを分断すべきではない」と所得制限を設けない考えを示していたが、バラマキ批判などと懸念した自民党との協議によって、親の年収が960万円以上の子どもを対象から除くことで合意。このことにより、子どもの1割が給付対象から除外されるという。
年収の水準は、自民党と公明党との協議で出ていた「児童手当に準じる」ということに基づく。この児童手当は原則、3歳未満は1人月1万5千円、3歳から中学校卒業までは1人月1万円受け取れる制度である。児童手当は、子どもを療育している父母などに対し、原則、市町村を通じて支給されている。
ただ、所得の高い人は支給額を月5千円に減額する「特例給付」という仕組みがある。その線引きのモデルケースとされる「子ども2人と年収103万円以下の配偶者」の場合の年収の目安が960万円以上であり、今回の給付についても、これに準じたという。
しかし「だれの年収で判断するのか」について、問題となってくる。児童手当の特例給付の場合、「世帯の中で所得が最も高い人」の年収となる。つまり、共働き家庭では、夫と妻の収入を合計した世帯全体の年収ではなく、夫か妻の年収の高い方の年収で判断する。
その方法により、今回の給付についてもこの基準を単純に適用するなら、夫も妻もともに年収950万円の共働き家庭の子どもには支給されても、年収970万円世主以外の収入がない家庭の子どもには支給されなくなってくる。
岸田首相は11月12日の夜、記者団の質問に対し、「世帯主への支援だ」と語った。また記者団が夫婦で800万円ずつ稼ぎ、世帯収入が1600万円でも給付の対象となるのか、と問うと、「世帯主ごと(の収入)で判断する。(対象に)なります」と述べる。
ただ実際の特例給付の場合、扶養家族の数に応じて線引きが変わるなど、もう少し複雑なシステムとなっており、その基準が今回の給付に適用されるかなどについては、分かっていない。
自民党がこの児童手当を目安として持ち出した背景には、いち早く給付するためでもあった。公明党は、受験や新年度などで支出が増える時期までに給付を行うようすることを要求。自公が念頭に置く12月中に補正予算が成立しても、年末年始の休暇などもあり、給付の事務に時間はかけられない。
しかし、児童手当はすべての市区町村で行われ、一般的に各世帯がすでに受け取る金融機関の口座を登録済みだ。
「特例給付」の対象に該当するかどうかについても、常に市区町村が定期的にチェックしており、申請をまたずに対象者を特定して届ける「プッシュ型支援」に近い方式が取られている。
また、国民1人あたり一律10万円の特別定額給付金をはじめ、コロナ渦における給付金の多くで支給が滞り、批判があったことも今回の給付に影響を与えた可能性がある。
だが、児童手当の制度をそのまま適用できることができるのは中学生までに限られる。16~18歳の世代の事務手続きがどうなるかも、現在のところ分かっていない。
実際の給付については、新型コロナ対応に備えた2021年度予算の予備費から、年内に現金5万円を先行して給付する。
残りは、年内の成立をめざす補正予算で財源を確保し、来年の春の入学シーズンに向け、教育や子育てに使途を限定した5万円分のクーポンとして配布する予定だ。
現金とクーポンとが平行して給付されることになったのは、現金では使い道を限定できず、政策目的である子どものために実際に使用されたかどうか、検証できないからだという。
しかしながらクーポンについても、使い道をどこまで厳格に限定するのか、使用期限をいつまでにするかなどについて、や、人口の少ない小規模の自治体では使える店舗がそもそも十分に存在するのか、あるいは自治体がクーポンの使途を限定するほど、特定の事業者のみが潤うという問題も起きかねない。
また実際に手続きを行う自治体の事務も煩雑になるとされ、自民党の茂木幹事長は、11月9日、記者団に対し、「市町村の事情によってクーポンが発行できない」こともあるとして、現場で柔軟に対応し、現金とすることも容認する姿勢を示した。
クーポンの配布にはさまざまなコストが見込まれる。紙で配布すると、偽造防止のための特殊な印刷技術を使用せねばならず、使用できる店の範囲を決めて登録作業をしたり、金券であるクーポンを手渡しするために市内の複数の場所で配るための人員を配置したり、実際に使用されたクーポンを店から回収し、換金して店にお金を振り込む作業も行わなければならない。
このようなクーポンの配布の前例は、1999年に65歳以上の年金受給者に対し、2万円分を支給した「地域振興券」があった。
だが、旧経済企画庁(内閣府)によると、その後の調査で振興券の支給効果で消費が増加したのは、使用額の32%しかないと結論付けており、今回の給付についてもその効果は不透明だ。
子育て・教育支援の効果についても、野党などからは、現金を含めた10万円だけでは、塾代など継続的に費用がかかる支援につながりにくいとの声も上がっている。