イランでヒジャブ=スカーフ着用をめぐり抗議デモ ヒジャブとは? 抗議の矛先「道徳警察」とは?

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bess.hamiti@gmail.comによるPixabayからの画像

 イランでヒジャブ=スカーフのつけ方をめぐり拘束された女性が死亡したことを受け、世界中で抗議活動が広がっている。日本でも、

「若者たちを殺すな!」

1

と外務省前に在日イラン人らおよそ200人が集まった。

 イランでは1979年の革命後、イスラム教のシーア派の教えに基づく「政教一致」の体制が敷かれている。

 女性は、公の場では髪の毛や身体のラインが見えないよう、「ヒジャブ」と呼ばれるスカーフや衣服で覆い隠すことが義務づけられている。

 ただ昨年、穏健派であったロウハニ前政権から保守派強硬派のライシ政権に交代すると、警察による取り締まりが厳しくなった2

 しかし、ここまで抗議活動が広がった背景としては、過酷を増して当局の取り締まりに加え、核開発問題をめぐるアメリカの経済制裁や、ウクライナ情勢の影響により経済の悪化が深刻化していることが要因とみられる。

 現地からの映像によると、女性たちが自らのスカーフに火をつけて抗議する場面や、警察の車両が放火される場面などが。さらに「独裁者に死を」という叫び声も聞かれる。

 今後、抗議の矛先が最高指導者ハメネイ師や、イスラム体制そのものに向けられている可能性も。

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ヒジャブとは


 ヒジャブとは、そもそも「覆うこと」または「隠すこと」を意味するアラビア語だ3。イスラム教における経典のコーランでは、神は、貞節な女性たちに

「目を伏せ、プライベートな部分を守り、(魅惑させないよう)飾らず」

4


するよう伝えている。

 これは女性たちが名誉と尊厳とを維持し、謙虚さを保ち、さらに外部的要因(性欲など)を取り除くことで、社会においてイスラム教徒として認められ、「虐げられる」ことを防ぐ。

 ただヒジャブはプラスの側面とネガティブな側面とが混在。女性はヒジャブを着けることで、愛やプライド、エンパワーメント、満足感、充実感、抵抗心など、さまざまなプラスの感情を表現することができる。

 他方、それは憎しみや困惑、哀れみ、そして軽蔑感などネガティブな感情の引き金ともなる4

 今日のイスラム世界では、ヒジャブの着用スタイルは個人的な好みによる。ただし、ヒジャブとは、正式には手、顔、足元を除くすべてを、長くて緩く、透けて見えない衣服で完全に覆うことをいう4

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抗議の矛先 「道徳警察」とは何か


 世界に広がった抗議の発端は、9月13日にイランの北西部から首都テヘランを訪れていたマフサ・アミニさんが、スカーフ(ヒジャブ)の被り方が適切でないという理由で宗教警察(ペルシャ語でガシュテ・エルシャード)に捕まり、16日に病院死亡したこと。

 これを契機にイランでは政府への抗議行動が全国的に広まったのだが、さらにこの抗議運動に参加した16歳の少女ニカ・シャクラミさんが行方不明の後に死亡したという事件が新たに明らかとなった。

 宗教警察は道徳警察ともいう。2005年の保守派強硬派のアフマディネジャド大統領の誕生とともに、その活動を開始5

 取りし締まられる女性も数多く、イラン内務省によれば、2014年には3カ月」の間に22万人の女性たちを警察に連行、「適切なヒジャブの着用」を誓約させる書類にサインさせたという。

 道徳警察はたとえば自動車のヴァンで街頭をめぐり、男性の職員とチャードルという黒い布で身体を覆った女性警官により構成。

 国連人権委員会によれば、このヴァンに女性たちを押し込み、連行する際に平手で殴ったり、こん棒で殴打することもあるという。

イランの政治 今後の動向


 イラン政治の特徴は、1979年におきたイラン革命の中心人物であるホメイニ師が唱えた「ヴェラーヤテ・ファギーフ」と呼ばれる、「イスラム法学者が国を統治する」というものだ。

 これは、たとえばアメリカが「国民が選んだ大統領がリーダーとなり政治を行っていく」のに対し、イランでは、「国民が選んだ大統領が」リーダーとなり、”イスラム法学者の管理の下で”政治を行っていくというもの。

 そのイスラム法学者を「最高指導者」と呼び、現在は2代目のハメイニ師が務める。 初代は、イランを建国したホメイニ師であった。

 最高指導者は基本的に終身制であり、1989年にホメイニ師が亡くなったタイミングでハメイニ師に代わる。最高指導者は、イランでは、「行政」「立法」「司法」の三権も凌駕する権力をもつ。

 さて、今回の抗議デモが政権に与える影響はあるか。

 イランでは、2009年の6月にも大統領選に不正があったとして大規模なデモが起きたほか、2019年11月にはガソリンの値上げに抗議するデモが、さらに去年の7月にも水不足に抗議するデモが起きた。

 ただ今回、女性のヒジャブ着用をめぐるデモがここまで拡大するとは、政権側は予想していなかったとも6

 ライシ大統領は、女性の死因を徹底究明するよう支持したものの、しかし抗議デモが収まる気配はない。

  1. TBS NEWS DIG「スカーフつけ方めぐり女性死亡 イランで続く抗議デモ 都内でも」2022年10月10 日、https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/174463?display=1
  2. 出川展恒「イラン 女性のスカーフめぐるデモと核協議の行方は」NHK解説委員室、2022年9月28日、https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/900/473817.html 
  3. パルシック「ヒジャーブ(スカーフ)って何?イスラム教徒の女性はなぜヒジャーブを着けるの?」2020年11月4日、https://www.parcic.org/report/palestine/palestine_learn/18024/ 
  4. パルシック、2020年11月4日 
  5. 宮田律「イラン女性を恐怖のドン底に陥れる「道徳警察」とは? 16歳少女の無惨死で世界が注目」日刊ゲンダイDIGITAL、2022年10月8日、https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/lifex/312570 
  6. NHK解説委員室、2022年9月28日 
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