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2023年のクリスマスのガザの状況は、非常に厳しい状況となっている。大規模な戦闘が始まった10月7日以降、ガザ地区では。2万人以上が死亡し、5万4000人が負傷している。
その結果、イエス・キリストの生誕の地として知られ、例年は多くの巡礼者や観光客でにぎわうパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区のベツレヘムでは、情勢を受けてクリスマス行事が中止となり、街は閑散。
それでも、クリスマスイブの24日は、聖地を訪問し、ガザ地区での一刻も早い戦闘終結を願う人たちの姿が。
ベツレヘムでは例年、世界遺産の聖誕教会前の広場に巨大なクリスマスツリーやイルミネーションが飾られ、多くの人々が集まる。
しかし2023年はクリスマスの関連行事は中止となり、クリスマスツリーの代わりに広場には、がれきや有刺鉄線とともに置かれたキリスト生誕の様子を表現したオブジェがあった。
本来、パレスチナの地はユダヤ教徒だけでなく、ムスリム、そしてキリスト教徒などさまざまな宗教の人が住む土地。
だが幅数キロ、長さ40キロの細長い土地に200万人がひしめくガザ地区全体において、キリスト教徒は1000人余りしかいない1。
カトリック教会のピエルバティスタ・ピザバララテン・エルサレム総大司教はこの日、ベツレヘムの聖誕教会を訪れ、
2「私たちの心はガザと、ガザにいるすべての人々と共にある。特に、苦難に直面しているガザのキリスト教徒に思いを寄せている」
とし、
3「私たちはここで祈りをささげる。ただ停戦を求めるだけではない。それだけでは不十分だ。暴力は暴力しか生み出さない」
と述べた。
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「子どもにとって世界で最も危険な場所」
ハマスがイスラエルに行った行為は確かに非難されるべきだ。
しかし、それによって引き起こされた現在のガザ地区の状況は、「報復の連鎖」という言葉はもはや適切ではなく、イスラエルによる単なる大量虐殺(ジェノサイド)となった。
国連児童基金(ユニセフ)のキャサリン・ラッセル事務局長は、現在のガザ地区を「子どもにとって世界で最も危険な場所」と指摘。
国連によると、10月7日以降だけで、ガザで亡くなった子どもの数はすでに、2022年に世界で起きたすべての紛争による数の2倍以上に上っているそう。
ガザで活動する援助団体メッドグローバルの代表であるザヘル・サロール博士は、
4「わずか2カ月でガザのパレスチナ人の子どものほぼ150人に1人が殺された」
とし、
5「これは米国なら子ども50万人が殺されたに等しい」
と続ける。
犠牲者増加の要因は、イスラエル軍の戦略の変化という6。
イスラエル軍は以前、ハイテク兵器を中心に精密な攻撃を行い、ガザへの空爆時には住民に携帯電話メッセージを送ったり、住宅の屋根に軽度の攻撃を行って避難を促していた。
しかし、イスラエルメディアによると、10月7日からの戦闘では「ガザ北部全体に避難要請を出している」とし、個別の警告はほとんど行われていない。
また、子供の犠牲者が多いのも特徴であり、ガザの保健当局によれば、全体の約40%が子どもの犠牲者。
ガザの人口構成による影響もあった。ガザは多産社会であり、女性1人あたり平均4人近くの子どもを産む。また、人口の40%は15歳未満の子どもだった。
”仲介役”カタールの存在
一方、カタールが最近注目されている。中東の産油国カタールは、ガザ情勢において、人質交渉の仲介者として重要な役割を果たす。
2022年には、サッカーのワールドカップを主催し、国土面積が秋田県とほぼ同じサイズのカタールは、ワールドカップを開催した最小の国となった。天然ガスの生産国であり、日本もカタールから大量のガスを輸入している。
カタールは君主制を採っており、40代の若い首長、タミム首長が統治。そして約300万人の人口を持つこの国の大部分は外国から来た労働者。
しかし正確な数は明らかにされていないものの推測では、実際の国民は総人口の約10%とされ、町中では主にインド、パキスタン、フィリピン出身の出稼ぎ労働者が目立つとのこと。
カタールがガザの情勢に深く関与している理由は、ハマスとイスラエルの両方との深い関係があるため。中東地域で両者と関係がある国はカタール、エジプト、トルコなど、数少ない。
とくにカタールは、ハマスとの意思疎通を図ることができる国の一つ。2012年頃、ハマスはカタールの首都ドーハに政治事務所を設立し、両者の関係はより深まった。
ハマスは、もともと「ムスリム同胞団」のパレスチナ支部として始まる。カタールとムスリム同胞団との関係も深く、1960年代からカタールは同胞団を支援しており、亡命先としても機能しきた。
そしてカタールとハマスの関係は、2006年のパレスチナ議会選挙の頃から築かれてきたという7。
一方、アメリカはカタールに頼る一方で、カタールとハマスの「近すぎる関係」を懸念する8。
米紙ワシントン・ポストは、ブリンケン国務長官が人質問題解決後にハマスとの関係を再検討することでタミム首長と合意したと報道。
ガザ情勢の真相 「核保有国」イスラエルの”草刈り場”としてのガザ
そして忘れてはならないのが、「イスラエルは核保有国」という”公然たる事実”だ。イスラエルは公式には認めていないものの、ストックホルム研究所によると、2022年1月時点で、90発の核弾頭を保有しているとされる。
アメリカは核弾頭を5428発保有しているとされ、あるいはロシアの5977発に比べれば少ないものの、しかし北朝鮮の20発を上回る数だ。
核拡散防止条約(NPT)で核保有が認められているのは、米ロ英仏中の5カ国。しかしイスラエルやインド、パキスタンはこのNPTに入らずに核兵器を開発し、北朝鮮はNPT脱退を宣言して核実験をつづけている。
国際社会は、イスラエルのNPT加盟を求めるとともに、中東一帯の非核化を目指す国際会議を2019年に初めて国連本部で開いた。ただ、その後の会議を含めてイスラエルとアメリカはすべて欠席した9。
「やられたらやり返す、倍返し」。しかしイスラエルの戦法は、「何十倍にしてやり返す」というもの。
イスラエル軍は、自国への攻撃に対して速戦即決で大規模に反撃する大量報復戦略をとってきた。そしてイスラエルは、この戦略に抑止効果があると信じている10。
イスラエルの安全保障関係者は、ハマスに対する攻撃を「草刈り」と呼ぶ。ガザ地区の直接占領は面倒だから統治主体としてのハマスはあってよいが、本格的には刃向かわせない。
ハマスがある程度力を付けたらたたくが、崩壊はさせない。ガザ地区への空爆や侵攻は芝の手入れのようなもので、現状維持の必要コストというわけ11。これが、ガザ情勢の真相だ。
- AFP BB News「ガザ地区キリスト教徒のクリスマスに暗い影、ベツレヘム訪問の許可下りず」2019年12月24日、https://www.afpbb.com/articles/-/3260927
- 時事通信ニュース「キリスト生誕の地ベツレヘム、イブも閑散 ガザに連帯」2023年12月25日、https://sp.m.jiji.com/article/show/3129277
- 時事通信ニュース、2023年12月25日
- 朝日新聞デジタル「なぜガザでこれだけ多くの子どもが命を落とすのか NYTコラム」2023年12月24日、https://digital.asahi.com/articles/ASRDQ43CTRDGUHBI00D.html
- 朝日新聞デジタル、2023年12月24日
- 三木幸治「増え続けるガザの死者、4割が子ども 背景にイスラエルの戦略転換」毎日新聞、2023年11月1日、https://mainichi.jp/articles/20231101/k00/00m/030/062000c
- 松本弦「イスラエル人質交渉 なぜカタールが仲介?ハマスとの関係は?」NHK国際ニュースナビ、2023年10月31日、https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2023/10/31/35499.html
- ドーハ=共同「カタールはガザ仲介の「要」 ガス資金背景、双方にパイプ 米国が交渉頼る」西日本新聞、2023年11月27日、https://www.nishinippon.co.jp/item/o/1150424/
- 木原育子・岸本拓也「またも飛び出した「核の威嚇」…地獄を招く被爆の実態を「知らな過ぎる」と憤る広島・長崎の原爆被爆者たち」東京新聞、2023年11月8日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/288685
- 鈴木英生「やられたら何十倍返し イスラエルの徹底的な報復戦略」毎日新聞、2023年10月22日、https://mainichi.jp/articles/20231020/k00/00m/030/302000c
- 鈴木英生、2023年10月22日