John MounseyによるPixabayからの画像
アメリカのバイデン大統領は、11月の大統領選挙から撤退することを表明。この決定は、民主党内からの圧力や、バイデン氏の年齢および認知機能に関する懸念が高まったことが背景にある。
バイデン大統領は、再選を目指す意向を持っていたものの、6月末のテレビ討論会での精彩を欠いたパフォーマンスがきっかけで、党内からの撤退要求が強まる。
討論会では、バイデン氏が明瞭に発言できない場面があり、視聴者や党内での不安が広がった1。
バイデン氏は撤退表明の際、副大統領のカマラ・ハリス氏を後継候補として支持する意向を示す。ハリス氏は既に立候補の意向を明らかにしており、民主党内での指名を目指す。
この決定に対して、国内外から様々な反応が寄せられている。ウクライナのゼレンスキー大統領やカナダのトルドー首相など、各国の指導者からはバイデン氏のこれまでの功績に対する感謝と敬意が表明された。
しかしバイデン氏の撤退は、アメリカ国内外の政治情勢に大きな影響を与える。特に、ウクライナ支援や中国との関係、そして中東政策など、バイデン政権が取り組んできた課題に対する今後の対応が注目される。
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過去に選挙戦から撤退した現職米大統領
バイデン大統領の撤退は、1968年のジョンソン大統領以来、56年ぶりの出来事。現職大統領が選挙戦から撤退することは異例だ。
両大統領とも、国内からの強い政治的圧力に直面していた。ジョンソン大統領の場合はベトナム戦争に対する反対運動、バイデン大統領の場合は高齢と健康状態に関する懸念である。
リンドン・B・ジョンソン大統領は、1968年3月31日にテレビとラジオでの演説を通じて、次期大統領選挙への出馬を断念することを発表。
ベトナム戦争の戦況が悪化し、米兵の死傷者が急増していたことが大きな要因だった。ジョンソン大統領は、軍事活動の縮小を表明し、ベトナム対策に専念するために再選を断念。
また戦争に対する国民の不満が高まり、若者を中心とした大規模な反戦デモや集会が広がっていた。これにより、国内の政治的圧力が強まっていもいた。
ジョンソン氏には健康上の懸念もあり、これも出馬断念の一因とされる2。
だがジョンソン大統領の撤退は、民主党内の亀裂を深め、最終的には副大統領のヒューバート・ハンフリーが民主党の候補として擁立されたものの、しかし共和党のリチャード・ニクソンに敗北した。
カマラ・ハリス氏とは?
カマラ・ハリス氏は、2021年に初の女性、黒人、アジア系の副大統領として就任。ジャマイカ系黒人の父とインド系の母を持つ移民二世であり、カリフォルニア大学法科大学院を卒業後、検事としてのキャリアをスタート3。
ハリス氏は、女性や少数派の権利擁護の闘士として知られている。検事時代から性的少数者(LGBTQ+など)の権利拡大に尽力し、副大統領としても女性の人工妊娠中絶の権利を訴えるなど、若者世代を中心に支持を広げていった4。
一方、ハリス氏は副大統領就任以降、側近の辞任が相次ぎ、人望が薄いとの指摘も受けている。特に、側近の辞任が相次ぎ、彼女のリーダーシップや人望に対する疑問も浮上。
例えば、ハリス氏のオフィス内では不和が広がり、士気が低下していると報じられた。また、彼女の首席補佐官が強権的であるとの批判もあり、古参支援者が遠ざけられているという指摘も5。
担当となった不法移民問題でも十分な対策を取らなかったと批判された。彼女はグアテマラで「アメリカ国境に来ないで」と発言し、大きな反発を招いた。
この発言は、彼女が移民問題に対する理解が不足しているとの批判を引き起こし、共和党からも「国境問題を解決できなかった」と攻撃される材料となった6。
ハリス氏はトランプに勝てるのか?
いずれにせよ、ハリス氏はドナルド・トランプ氏に対し、強みと弱みを持つ。
ハリス氏は女性であり、黒人とアジア系のバックグラウンドを持つため、多様な有権者層にアピールできる可能性がある。59歳という年齢も、78歳のトランプ氏に対して若さを武器にできる点だ7。
最近の世論調査では、ハリス氏の支持率がトランプ氏を上回るという結果も出た。例えば、ロイター/イプソスの調査では、ハリス氏が44%、トランプ氏が42%という結果が8。
またバイデン氏の撤退後、ハリス氏は民主党の大統領候補として多くの支持を獲得。ペロシ元下院議長などの重鎮もハリス氏を支持する9。
弱みとしては、ハリス氏は全国的な選挙戦の経験が不足している点が指摘。2020年の大統領選予備選でも早期に撤退しており、選挙戦の運営に課題があると見られている10。
世論調査では、ハリス氏とトランプ氏の支持率は拮抗しており、選挙戦は接戦になると予想。ハリス氏の支持率が上昇している一方で、トランプ氏も依然として強い支持基盤を持つ。
選挙戦の行方は今後のキャンペーン活動や討論会、政策提案などによって大きく左右される。
- Ryuichi Washio「バイデン大統領、「3週間の圧力」に屈す 現職撤退は56年ぶり」日経ビジネス、2024年7月22日、https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00640/072200009/
- 日本経済新聞「バイデン氏撤退、現職出馬断念56年ぶり 当時は民主敗北」2024年7月22日、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB11CGE0R10C24A7000000/
- 時事ドットコムニュース「カマラ・ハリス氏、新たな「史上初」目指す 権利擁護の闘士―米大統領選」2024年7月22日、https://www.jiji.com/jc/article?g=int&k=2024072200675
- 時事ドットコムニュース、2024年7月22日
- 渡辺将人「バイデン政権を悩ますハリス副大統領という難題」日米関係インサイト、2021年8月27日、https://www.spf.org/jpus-insights/spf-america-monitor/spf-america-monitor-document-detail_102.html
- Lauren Gambino「GOP wants to hold Harris’s immigration record against her – what did she do?」The Guardian、2024年7月27日、https://www.theguardian.com/us-news/article/2024/jul/27/kamala-harris-immigration-republicans
- 木内登英「大統領候補指名を確実にしたハリス氏の強みと弱み:過去の言動からハリス氏の経済政策を占う」NRI、2024年7月25日、https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2024/fis/kiuchi/0725_3
- ロイター「ハリス氏、支持率でトランプ氏を2%ポイントリード 米大統領選」2024年7月24日、https://jp.reuters.com/world/us/WNMOCBFNZFLTDCSQKOD5UNQN2U-2024-07-23/
- BBC NEWS JAPAN「【米大統領選2024】 ハリス氏が初の選挙集会、トランプ前大統領を非難 本選は「元検事と重罪犯の二択」2024年7月24日、https://www.bbc.com/japanese/articles/c51yjyvy14yo
- Nandita Bose , Jeff Mason, Bianca Flowers「アングル:米大統領選、民主党候補がハリス氏ならトランプ氏に勝てるか」Reuter、2024年7月9日、https://jp.reuters.com/world/us/CUQQHW2CEJIQXGKALLJTFQPCMY-2024-07-08/