アメリカナンバー3 ペロシ氏が台湾を訪問 しかし台湾市民は否定的 ペロシ氏とは? 結局は「個人のレガシー」優先か?

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 その1機の飛行機のフライトの行方を、世界中が注視した。

 台湾統一を目指す中国の習近平指導部がアメリカと台湾との関係接近に警戒し、警告を繰り返すなか、米国ナンバー3の立場にあるナンシー・ペロシ氏(82)が、米下院議長として25年ぶりに台湾を訪問。

 ただ、各国の航空機を追跡する民間のサイトによると、ペロシ氏を乗せた専用機は、中国との不測の事態を避けるため、南シナ海を大きく迂回するルートを取る。

 専用機は2日、マレーシアを離陸したのち、台北への最短ルートではなく、インドネシアの上空やフィリピンの東側を飛行。結果、中国がほぼ全域の領有権と管轄権を主張する南シナ海を回避して飛ばざるを得なかった。

 しかも、その姿をインターネットでリアルタイムに、全世界30万人以上が注視する事態に。

 米政府高官は、

 軍事的緊張が高まるリスクを前に慎重を期したのだろうが、南シナ海に関する中国の主張を認めたと受け止められかねない。

ワシントン、北京共同、西日本新聞、8月4日付朝刊

と話す。

 米中政権ともに、国内的に火種を抱えるなか、「新冷戦」とも呼ばれる米中対立が激化するおそれも。1996年の台湾海峡危機以来の軍事的な緊張を懸念する声もある。

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ペロシ氏とは 米ナンバー3の対中強硬派 今年の北京五輪の外交ボイコットも主導

 ペロシ氏は米国正・副大統領につぐナンバー3の高官であり、筋金入りの対中強硬派。昨年には、今年2月に開催された北京冬季オリンピックに「各国首脳は欠席をすべき」だという、外交的ボイコットを呼びかけた1

 連邦議員歴は35年に及ぶ、民主党の重鎮。その間、一貫して人権問題を厳しく批判してきた対中強硬派だ。

 議員5年目の1991年、中国を訪れ、天安門事件が起きた北京の中心部の広場を訪れ、

 民主主義のために犠牲になった人々にささげる。

ワシントン、共同、西日本新聞8月4日付朝刊

と書かれた横断幕を掲げる。

 1940年、東部のメリーランド州に生まれた。1987年、カリフォルニア州サンフランシスコの中華街が存在する選挙区から選出され、連邦会員議員に就任。

 下院の議長職は、2019年から2回目。夫とともにカリフォルニアに移住し、5人の子どもを育てた。

 女性の地位の向上に取り組んできたリベラル派であり、しかし議会の内外ではときに物議を醸す政治的な活動を続けてきた”行動派”でもある。

 強い女性

と、アメリカ初の女性下院議長職でもあるペロシ氏について、米国政府関係者は皆いう。女性蔑視的なトランプ前大統領とは、犬猿の仲でもあった。

バイデン氏、「失言」 以後、沈黙 大統領も止める権限なく

 今回の事態は、バイデン大統領の「失言」が招いた側面も。ペロシ氏の訪台の計画は、今年2月ごろに始まったといわれるが、7月20日に大統領は、

 軍は良い考えではないと言っている。

金子渡、西日本新聞8月4日付朝刊

と発言して以降、沈黙。発言は明らかな「失言」だと受け止められた。

 公の場でペロシ氏の訪台を好ましくないであると明らかにしたことで、ペロシ氏が訪台を断念できない状況に追い込んだと、アメリカメディアの複数が、大統領の「失態」であると問題視。

 下院議長職は、大統領が職務を続けられなくなった場合の承継順位が、副大統領に次ぐ立場。だからこそ、7月の中旬に訪台の計画が報道されると、中国政府は警告。安全保障上の懸念も高まった。

 ホワイトハウスの高官や米軍幹部らも、訪台にともなう安全保障上の懸念を伝える。

 しかし、政治学上の見方でも日本以上に、行政と議会、裁判所の三権分立が徹底しているアメリカでは、行政のトップであるバイデン大統領であっても、議会トップのペロシ氏に対し、中止や延期を命じることはできない2

 一方、ペロシ氏の訪台により、ウォールストリート・ジャーナルは米政府当局者の話として、習近平氏が台湾統一の目標時期を、2020年代後半から最短で、今後18カ月以内に早めたと報じた。

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台湾政府も否定的? 結局は「個人のレガシー」優先か

 台湾市民の見方は複雑だ。イギリスのガーディアンは、台湾メディアによる世論調査を引用し、

 約3分の2の台湾人が、ペロシ議長の訪問は状況を不安定化させる。

岡田充、2022年8月4日

と考えていると報道3。台湾メディアの中国時報も、

 アメリカと台湾の高官がいずれも訪問中止を求めたにもかかわらず、現在82歳で中間選挙(11月)後に退任する可能性が高いペロシ氏が「個人のレガシーの追求を堅持した。

岡田充、2022年8月4日

と書いた4

 また中国時報は、台湾の簫美琴駐米代表の台湾外交部宛て公電の内容をもとに、ペロシ氏が20日に簫氏に電話して訪台の意向を伝えたと報じる。

 そして、このとき、ペロシ氏は台湾側も招待の撤回に傾いていることを初めて知ったという5

 この動きを受け、国家安全保障会議(NSC)のカート・キャンベル・インド太平洋調整官は7月22日に簫氏に電話をし、ペロシ氏に”繰り返し”台湾訪問の延期を求めた経緯を明らかにする。

 同じ日、オースティン国防長官がペロシ氏に直接、訪台をすれば中国が威嚇の行動に出るおそれがあることを伝えたという。

 ペロシ氏の訪台後、中国人民解放軍は台湾を包囲し、軍事演習をした。

  1. BBC NEWS JAPAN「ペロシ米下院議長、北京冬季五輪の外交ボイコット求める」2021年5月19日、https://www.bbc.com/japanese/57166910
  2. 吉田道夫、東京新聞2022年8月3日付朝刊
  3. https://www.theguardian.com/world/2022/aug/02/mood-shifts-in-taiwan-as-nancy-pelosi-visit-raises-fears-of-war
  4. https://www.theguardian.com/world/2022/aug/02/mood-shifts-in-taiwan-as-nancy-pelosi-visit-raises-fears-of-war
  5. 岡田充「台湾メディアが書いた全内幕。ペロシ米下院議長「本人以外誰も望まない」訪台実現の一部始終と「負の遺産」」BUSINESS INSIDER、2022年8月4日、https://www.businessinsider.jp/post-257584