「郵政民営化」のなれの果て 経費でカレンダーを購入し、自民党議員の後援会らに配布 「自民党最大の集票マシーン」と化す

Daria NepriakhinaによるPixabayからの画像 

 

 全国の郵便局長らが、2019年と2020年に、自民党の参院議員の後援会の会員らに配布していたカレンダーを、日本郵便経費で購入されていたことを西日本新聞がスクープした。

       

 参院議員は、小規模の郵便局の局長らでつくられる任意団体である「全国郵便局長会」(全特)が支援しており、「(この)全特の各地組織の幹部が支援者への配布を指示した」との証言もあるという(西日本新聞 me 10月9日付)。

       

 これが事実なら、日本郵便の経費が後援会の政治活動に使われた形となり、政治資金規正法が禁じる「企業献金」に当たる可能性がある。

       

 西日本新聞が入手した内部資料によれば、配布されたカレンダーは、「郵便局長の見つけた日本の風景」という月めくりのA3判壁掛けカレンダーで、仕入れ価格は1部160円。

       

 これを、地域で10局の郵便局を束ねる全国の担当局長が、2年間で合計約400万部を購入し、総額が6億円超の経費が使われたとされる。ただ、実際に支援者にこれが渡った部数は明らかとなっていない。

       

 局長らは、「局長会から支援者宅を訪問して配布するよう命じられた。参院議員への支援のお礼を伝えて渡して回った」と語っている(同・西日本新聞 me)。さらに、全特は、カレンダーを後援会活動の「訪問ツール」と位置付けていたともされる。

       

 全特の事務担当者が2019年の9月、各地の担当者に送信したメールには、

           

特に今夏の活動等でご協力いただいた方々を中心に配布(1局100世帯)するものですので、漫然と窓口カウンター上に置いて来局者に配布することがないよう指導をお願いします。

と記載されていた。

               

メール内の「今夏の活動」とは、2019年夏の参院選のことだと思われる。

 全特は、小規模局の局長ら1万9千人で構成されている。全特は、民主党から政権を奪回して初となる2013年の参院選以降、比例代表に自民党から候補者を擁立してきた。

           

 後援会も立ち上げ、支援活動も展開し、現在は柘植芳文氏と徳茂雅之氏を現職として国会へ送り出している。

  

 1988年に発覚したリクルート事件を発端に政治家への資金提供が相次いで問題化したことを受け、政治資金規正法は、企業に対し、政党と政治資金団体以外の政治団体への寄付行為を禁止している。

       

 後援会などに対し、金銭や物品を供与すれば、違法な企業献金となり、受け取った側も含めて1年以下の禁錮刑などの罰則が科される。

       

 西日本新聞の取材に対し、政治資金に詳しい神戸学院大の上脇博之教授(憲法学)は、

           

 今回は後援会が負担すべき経費を日本郵便が支出しており、外形上は明らかな寄付行為だ。会社側が政治活動に使われると知りながら経費利用を認めていれば、関係者が政治資金機正法違反に問われる可能性もある。組織的に全国で行われているとみられ、大きな問題だ

と指摘していた。

           

 日本大大学院の岩井奉信講師(政治学)は、

日本郵便は公的なサービスを担う企業であり、経費の使用を巡って局長会側とどのようなやりとりがあったのかなど経緯を調査して説明する責任がある。

と述べていた。

       

 このような企業献金の問題は後を絶たない。2009年に神戸製鋼所(神戸市)が地方議員の後援会に総額約2700万円の寄付をしていたことが問題か、当時の会長と社長が辞任するに至った。

   

 西日本新聞の報道後、日本郵便は10月26日、内部調査の結果を公表した。

           

 その中では、

 会社(日本郵便)として政治活動をしているかのような誤解を生じさせる不適切な指示があった。

とし、全特の役員などを務める局長ら90人と地方支社長6人を、訓戒や注意、報酬減額の処分とした。

               

 処分の内訳は、全特の末武晃会長を含む各地区代表の統括局90人が訓戒や注意の懲戒処分。地方支社長6人が管理・監督責任の問い、訓戒や月額報酬の10%減額(1ヶ月)の処分とした。経営陣の責任などは、親会社の日本郵政が調査中だ。

       

 報道を受け、日本郵便は、全特の役員を含む約千人に聞き取り調査を実施した。それによると、全特は各地方局長会を通し、カレンダーを後援会員らに配布するように統括局長にメールで指示、調査対象となった223人の統括局長のうち4割がこの指示をさらに下の局長に伝えていたことを確認し、処分を課した。

          

 結果的に、2018〜2020年度に経費で購入されたカレンダーは、計約508万部、約10億円にのぼるという。

           

 さらに、郵便局のロビーに訪れた客を後援会に勧誘するよう指示したりする行為も発覚した。ただ、日本郵便側は、政治活動の一環として配布したかどうかなど詳細な状況については、「確認していない」と答え、全特がカレンダーを政治活動に流用していたことは、「把握していなかった」とする。

               

 現場で実際にカレンダーを配布した局長については、処分の対象としていない。

  

 西日本新聞が入手した内部資料によれば、

           

 カレンダーについては、後援者等からの評判がすこぶる良好で、今年末もぜひ、継続したいとの要望が強かった。→会社と継続交渉することとした。

           

などと、会議の議事概要に全特がカレンダーの費用の負担を要求したり、後援会活動に流用したりする意思決定の過程が詳細に記録されていた。

           

 また、2019年の参院選を前に内部向けに発表された全特の会長のメッセージでは、

               

 郵政関係の政治課題の解決を図るためには、郵政グループとして政治への大きな影響力を保持し、働き掛けていかなければならない。

           

強調。

       

 さらにカレンダーについて協議した2020年2月の会議には、来年夏の参院選比例代表に自民党公認の新人候補として擁立を決めている長谷川英晴氏も出席していた。

           

 この長谷川氏は当時、選挙対策など「政治問題」担当の全特の副会長で、2019年11月の全特役員会では、「年末時のカレンダー配布等、お客様対応」について説明しており、カレンダー配布についても重要な役割を果たしていたとされる。

       

 さらに西日本新聞が入手した内部資料によれば、全特側が日本郵便に対し、2021年用にカレンダー購入費3億2千万円を要求し、日本郵便が予算化を認める記述もあった。

   

 郵政グループは小泉政権下での2007年の郵政民営化以降、民間企業としての経営を求められるとともに、過疎地も含む全国で、郵便・保険・貯金の事業を提供しなければならない「ユニバーサルサービス」を義務付けられた。

       

 そのようななかで、全特はその政治力を活かし、表立っては政治活動ができない郵政グループを代弁してきた。

           

 実際、ゆうちょ銀行の預入限度額の引き上げや、グループ内での取引で発生する数百億円規模にものぼる消費税を、事実上、免除させる仕組みを導入するなどの働きかけを実現させてきた。

       

 また、内部では集票力を保持するために、さまざまな既得権益を維持してきた。小規模の局長の採用は、一般の局員とは別枠の公募により実施され、地区の役員の局長らが試験前に研修会を開き、夫婦で選挙活動ができるかなども確認していた。

               

 採用された後は、半強制的に全特に加入させ、自民党員にもなるという。さらに局長には原則として転勤の制度がない。ただ、このような仕組みは、パワハラや長期間に及ぶ顧客からの詐欺など、今まで相次いで発覚してきた局長の不祥事の原因ともなってきた。

       

 今回の不祥事は、全特が「自民党最大の集票マシーン」として長らく機能してきたことを、改めて認識させるものとなったであろう。