hosny salahによるPixabayからの画像
ガザ危機の中で、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)も重大な試練に直面している。
UNRWAのラザリーニ事務局長は10日、東エルサレムにあるUNRWA本部がイスラエルのデモ参加者によって放火されたと発表。職員の安全が脅かされているとし、本部の治安が回復するまで当面、本部を閉鎖するとした1。
ラザリーニ事務局長は、国連職員とその施設を常に保護するのは、
「(東エルサレムの)占領国としてのイスラエルの責任だ」
2
と主張する。
発表によると、9日にUNRWA本部の敷地内で火災が発生し、建物内にいた職員が消火活動を行う。職員に被害はなかったものの、屋外エリアには被害が及んだとのこと。
また、敷地内にはガソリンなどの燃料も保管されていた。本部への放火は、1週間ほど前にもあった2。
ラザリーニ事務局長によれば、過去数カ月間、本部周辺のデモ参加者が職員に対して日常的に嫌がらせを行い、銃で脅すこともあった。
しかし、先週からは職員や施設に対して石を投げるなど、より暴力的な行動が見られるように。9日には本部の外で群衆が「国連を焼き払え」2と叫んだという。
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UNRWAとは
UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)は1949年に設立され、ガザ地区やヨルダン川西岸地区、ヨルダン、レバノン、シリアでパレスチナ難民の支援と保護を行う。
UNRWAの最新データによれば、2023年初めの時点で、同機関が支援する地域には約590万人のパレスチナ難民が存在し、そのうちガザ地区には約160万人が住んでいた。
これらの地域において、たとえばUNRWAは計706の学校を運営し、そこには約54万3,075人の生徒が学んでいた3。また、140の医療施設を運営し、58の難民キャンプでインフラ整備や住環境の改善を行っていた。
パレスチナ難民の定義について、UNRWAは1948年前後のイスラエル建国時にパレスチナに居住し、第1次中東戦争で家や生活基盤を失った人々とその子孫を含むとする。
しかし時間の経過により、現在では「第3〜4世代」の難民も多く存在4。
このような幅広い支援活動は、多くの国々や国際機関からの資金提供によって成り立つ。2022年には、全体で約11億7千万ドル(約1,730億円)の拠出金が集まった。
最大の支援国である米国は約3億4千万ドルを提供し、次いでドイツが約2億ドル、欧州連合(EU)が約1億1千万ドルを拠出。日本も約3千万ドルの支援を行う。
ガザ支援の”唯一無二”の存在
UNRWAをめぐっては、今年2月、複数の職員がイスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲に関与したとの疑惑が浮上、これを受け、日本など複数の国が資金拠出の停止を表明する。
実際、UNRWAは1月月26日、ハマスによるイスラエル奇襲に関与した疑いで、12人の職員を解雇。
また、同月29日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、ガザにいるUNRWA職員の約1割がハマスやパレスチナの武装組織「イスラム聖戦」と関係があると報道した。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、イスラエル襲撃への関与を理由に解雇されたUNRWA職員12人の中には学校教師も7人いたとのこと。
このことについて、スイスの保守右派・国民党(SVP/UDC)のピエール・アンドレ・パージュ氏は1月27日、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)において、昨年UNRWA学校を訪問した際に教室への立ち入りや教科書の閲覧を拒否されたと言明5。
そして、「これこそが、この組織に深刻な問題があったことを証明している」6述べた。
ガザ難民を支援する組織としては、他にも赤十字国際委員会(ICRC)などがある。しかし、実質的にはUNRWAが”唯一無二”の存在であることは間違いない。
一方、アメリカの大学で抗議デモ 「イスラエル・ロビー」の影響、強く
一方、先月下旬にかけ、アメリカの大学で、イスラエルへの抗議デモが展開。
しかしニューヨークのコロンビア大を始め、警官隊がデモ隊のテントを撤去。コロンビア大では100人以上が拘束される。
このような大学側の強硬姿勢のは背景には、イスラエルを支持する「イスラエル・ロビー」の存在があるとの声も。
コロンビア大で中東現代史を教えるアラブ系のラシッド・ハリディ教授(75)は読売新聞の取材に対し、
「大学は大口寄付者に逆らえず、学生の『言論の自由』を奪うことに必至だ、独立性はみじんもない」
7
と嘆く。
アメリカの大学では、卒業生や企業などから多額の寄付を受け、基金として独自に運用し、授業料や補助金などとともに経営の柱とする。
しかし大口寄付者には、イスラエルを支持する団体や企業も少なくなく、大学の経営方針や人事の決定権を持つ評議員のメンバーに入るケースも8。
また、イスラエル・ロビーに詳しい著名な政治学者でシカゴ大教授のジョン・ミアシャイマー氏は、読売新聞に対し、
「イスラエル支持の寄付者は寄付を通じて大学内の『政治』に深く関与し、イスラエルに有利な方向に仕向けるロビー活動を展開している」
8
とした。
- 朝日新聞デジタル「「国連を焼き払え」、UNRWA本部が一時閉鎖へ 放火や嫌がらせ」2024年5月10日、https://digital.asahi.com/articles/ASS5B3FTBS5BUHBI01LM.html
- 朝日新聞、2024年5月10日
- 浪間新太「日本も資金拠出停止 UNRWAとは? ガザの「命の支援」の行方は」朝日新聞デジタル、2024年1月30日、https://digital.asahi.com/articles/ASS1Y64ZMS1YUHBI01N.html
- 浪間新太、2024年1月30日
- swissinfo.ch「UNRWA資金めぐり様子見するスイス 勢力増す批判派」2024年2月1日
- swissinfo.ch、2024年2月1日
- 読売新聞「多額寄付 ユダヤ系影響力」2024年5月7日付朝刊、11項
- 読売新聞、2024年5月7日