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第2次岸田再改造内閣の発足後、初めての国政選挙となる衆参2つの選挙区の補欠選挙が10月22日投開票。
ともに与野党対決の構図となった結果は、衆院長崎4区は自民党新人の元会社員金子容三氏(40)=公明推薦=が、参院徳島・高知選挙区では野党系で無所属元職の広田一氏(55)が、それぞれ当選した。
政権への「中間選挙」1とも位置付けられた補選は、元は自民党の議席であったものの、結果自民の1勝1敗となり、岸田文雄首相は、今後の政権運営や、衆議院の解散戦略の練り直しは避けられない。
長崎4区補選は、北村誠吾元地方創生担当相の死去にともない、実施。金子氏と、立憲民主党の前職の末次精一氏(60)=社民推薦=の一騎打ちなる。
物価高、経済対策、世襲の是非などが争点となるも2、投票率は過去最低の42.19%にとどまる。
選挙戦で、金子氏は元証券会社社員という経歴やアメリカ留学という経歴をアピール。日本の成長には、「教育改革への投資」が必要であると訴え、政権与党としての政策の「実行力」を前面に押し出す。
対して末次氏は、連合長崎を軸に、国民民主、社民の各党が支援する野党共闘を構築。ガソリン税の引き下げなどを訴え、あるいは金子氏が政治家一家の「3世」に当たるとし、世襲批判を訴えるも3、敗北した。
一方、秘書だった男性を殴った高野光二郎氏(自民離党)の議員辞職にともなう参院徳島・高知選挙区は、隣り合う県を一つの選挙区に統合する「合区」制度での初めての選挙戦に。
立民、共産両党から支援を受けた広田氏は、無党派層から幅広い支持を得たほか、自民党支持層にも一定程度浸透し、自民新人の西内健氏(56)=公明推薦=を破った。
しかしながら、自民が目標としていた「2勝」には届かず、岸田文雄政権の今後の政権運営が不安定化する要因のひとつとなる可能性が。
衆院解散、遠のく
自民党の「2勝」という目標は達成できず、結果、首相の求心力も低下。首相を「選挙の顔」として見る向きもより一層、不安視され、年内の衆院解散論は事実上、不可となった。
今回の結果を、自民党のベテランは、
「1敗でも手痛い。解散のフリーハンドは握れない」
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と指摘した。
補選の2選挙区はもともと、自民党の議席であっただけに、党は「2勝は必達目標」と位置付けていた。しかし、その実態は、
「マイナスからのスタート」(選対筋)
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であったという。
参院徳島・高知選挙区は秘書を殴った高野氏の辞職にともなう戦いのため、イメージはマイナス。現場においても、徳島と長崎は知事選をめぐり、”しこり”がのこり一枚岩とはいえない戦いであった。
選挙戦中盤に入ると、徳島・高知では野党系候補にリードを許す情勢分析が政権に届く6。一方、勝利が堅いとされた長崎4区も猛追。中には、長崎は宏池会(岸田派)と縁が深いため、
「宏池会の選挙だ」
と距離置く自民幹部もいたという7。
「選挙の顔」として期待された小渕優子選対委員長は、組織票固めを優先し、無党派層を意識することはない。選挙期間中の木原稔防衛相の「自衛隊」発言も。自民党ベテランは、
「複雑骨折の状態で投開票日を迎えた」
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と評す。挙句、
「2敗さえしなければ御の字だ」
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と首相周辺は予防線を張る始末。1勝さえすれば、減税を柱とした経済対策を進め、失敗は取り返せると踏んだ。
しかし、これは、
「ご都合主義だ」(閣僚経験者)
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とも。選挙区は本来、保守の地盤であるとし、2勝できなかった責任は重いという。
「立憲」党名出さず、いびつな1勝
2年前に立憲の代表に就任して以来、選挙での敗北が続いた泉健太氏にとっては、初めての勝利をなった徳島・高知での1勝。しかし実のところ、素直に喜べる1勝ではなかった。
立憲が支援した前立憲の衆院議員候補は、しかし今回、「完全無所属」で出馬。保守票の取り込みを狙い、陣営は選挙期間中、「立憲」という看板を封印。街頭演説でも党名には一切触れない、いびつな選挙戦となった11。
逆にもう片方の衆院長崎で公認候補を擁立し、党名を前面に出して戦い敗北したことで、ある中堅議員は、
「立憲が勝った選挙とは言えない」
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との見方を示した。
党内では、この長崎を含め2勝すれば、次期衆院選に向け停滞する野党間の候補者の一本化の協議も弾みがつくだけに、その期待はもろくも崩れ去った。むしろ、立憲幹部は、
「立憲を中心とした協力態勢を、なかなか他党に持ちかけにくくなった」
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とこぼす。仮に候補者の一本化や「野党共闘」ができたとしても、”立憲”の看板では選挙に勝ちきれないという事実が、今回の補選で現れた形に。
あるいは、泉氏と距離を置く衆院中堅は、
「2勝して首相に辞められ、泉氏に調子に乗られるのも嫌だ。1勝1敗がちょうどいいよ」
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との声も。
野党間も一枚岩ではない。高知では、立民と共産党は幹部が地元入りしたものの、日本維新の会と国民民主党は目立った動きはみせなかった。次期衆院選に向けた候補者の調整に向けては、なお隔たりがある。
一方、補選の舞台となった2つの徳島・高知、長崎の3県はいずれも共産の地方議員が立憲を上回っており15、共産にとっては、自らの力を再び、立民に示す機会ともなった。
長崎、「世襲」批判かわす 「合区」低投票率招く
衆院議員であった北村誠吾氏の死去により行われた衆院長崎4区補選では、自民が勝利し、議席を守った形に。
当選した金子氏の父は、衆院議員や長崎県知事も務め、岸田内閣でも農林水産相を務めた金子原二郎・元参院議員。祖父の故・岩三郎氏も元農水相という政治家一族の3代目だ。
そのため、世襲批判を警戒し、父の原二郎氏が選挙の表舞台に立つことは避けつつも、水面下では原二郎氏が陣頭指揮を執る。後援会組織も事実上引継ぎ、原二郎氏からの代からの支援企業を中心に支持を固める16。
結果的には、自民候補の父、金子氏の秘書であった黒田成彦氏が市長を務める平戸市の投票率は3.48ポイントしか落ち込まず、世襲批判をうまくかわした。
一方、選挙応援に来た木原防衛相の、「(自民党候補を)応援することが自衛隊とその家族の苦労に報いることになる」との発言も、立憲へのプラス材料とはならなかった。
自民党執行部のひとりによると、立憲への一番の打撃は、民間労組の野党離れであるという17。
候補の出身地で県議時代の選挙区であった大票田の佐世保市の不振が痛かった。佐世保は戦前、海軍の拠点があり、現在も在日米軍や自衛隊の基地がある。
また三菱重工業を中心とした造船の町でもあったが、現在は造船業も落ち込む。そして自民党は国民民主への連携の働きかけとともに労組票の引き剝がしを行い、それが功を奏したという18。
自民党は次の衆院選においても、佐世保のような企業城下町のような地区においては、同様の選挙戦を繰り広げるという。
他方で、合区の参院徳島・高知選挙区の投票率は、徳島県が23.92%、高知県が40.75%となり、参院選としては両県ともに過去最低を記録。「合区」の課題を残した。
- 才木希・重川英介「衆参補選 自民1勝1敗」西日本新聞、2023年10月23日付朝刊、1項
- 才木希・重川英介、2023年10月23日
- 才木希・重川英介、2023年10月23日
- 御厨尚陽・大坪拓也「年内の衆院解散遠のく」西日本新聞、2023年10月23日付朝刊、1項
- 西日本新聞「水差す党幹部 減税も不発」2023年10月23日付朝刊、3項
- 西日本新聞「水差す党幹部 減税も不発」2023年10月23日
- 西日本新聞「水差す党幹部 減税も不発」2023年10月23日
- 西日本新聞「水差す党幹部 減税も不発」2023年10月23日
- 西日本新聞「水差す党幹部 減税も不発」2023年10月23日
- 西日本新聞「水差す党幹部 減税も不発」2023年10月23日
- 小林圭・多渕清子「党名ださずいびつな「共闘」泉立憲1勝」朝日新聞、2023年10月23日付朝刊、2項
- 小林圭・多渕清子、2023年10月23日
- 小林圭・多渕清子、2023年10月23日
- 小林圭・多渕清子、2023年10月23日
- 中村紬葵・安部志帆子・綿貫洋「検証 首相解散戦略に影」毎日新聞、2023年10月23日付朝刊、2項
- 土居貴輝「首相不人気 嘆く自民」朝日新聞、2023年10月23日付朝刊、29項
- 大石格「自民、地力通りの衆院長崎補選 低投票率でも得票維持」日本経済新聞、2023年10月23日、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD230BC0T21C23A0000000/
- 大石格、2023年10月23日